グノーブル 卒業生インタビュー Part 4

ホーム > Gno-let > Gno-let24 > グノーブル 卒業生インタビュー Part4


データサイエンスと臨床を結びつけて、
新しい時代のチーム医療を確立したい。
2019年5月から6か月間、マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)に研究留学することが決まったグノーブル10期生の海老名洸太朗さん。在学する東京医科歯科大学医学部で2人目の快挙です。留学の目的は、医学に意思決定の新基準を導入して“新しい時代のチーム医療”を確立しようというもの。そのために、データサイエンスの最先端で、患者の検査データと医療現場のパイプ役となる“データサイエンティスト”の働きを学んでこられるそうです。それに先立ち、意気込みや期待感をお聞きしました。


10期生 海老名(えびな) 洸太朗(こうたろう)さん
(学習院/東京医科歯科大学医学部3年)※取材時
医学を学んで幅広い医療の可能性が見えた
 3年前の『東大合格特集号』(Gno-let vol.17)のインタビュー当時から、「臨床医という選択肢だけではなく、医学という学問を通して、違った形で社会に貢献できる可能性も模索してみたい」と思っていましたが、基本的な思いは今も同じです。もちろん臨床医の道も捨ててはいません。ですが、もう少しマクロに考えて「医療を“何か”と結びつける」、そういう動きをしたいというモチベーションをずっと保っていたことが今回のMITへの研究留学につながりました。
 「MITに行く」と友達に話すと、9割くらいの人に「MITって医学部あるの?」という質問をされますが、僕がMITに行く目的は、医療とテクノロジーとを結びつける“データサイエンティスト”の働きを学ぶためです。
 大学で“医学”を学んでみると、医者の本業である人を治すということだけではなく、産業との結びつきやデジタル技術の有用性など、もっと幅広い医療の可能性が現実的に見えてきました。それが3年前と今との違いだと思います。大学に入った頃は、違った形の社会貢献といっても、新薬の開発くらいしか思いつきませんでしたが、今は、医学の知識はもっと多様な業界とつなげられるという見方に変わりました。
研究成果をどうマネタイズするかを見てきたい
 データサイエンスという言葉は最近とてもはやっていて、いろいろな人が使っています。医療といかにも結びつけられそうだからです。例えば、MRIとかCTのデータが一瞬で解析できるって夢があるじゃないですか。そういうことはキャッチーなので、日本でも人に説明する時によく使われます。でもデータサイエンスには実はもっといろいろな可能性があって、その最先端を間近で探るためにはやはり留学が必要です。
 また、アメリカの大学はどこでもそうだと思いますが、特にMITは、自分の研究成果や発見をどうマネタイズするか、つまりどう事業化しお金に換えて社会に出していくかをすごく考えているので、そういう空気を感じたいんです。日本ではどうしてもアカデミアで完成されたものが、商業ベースに乗るまでにものすごい時間とプロセスが必要になったり、利権が絡んでくると思います。そういうところをアメリカはどう取り組んでいるのか、留学して学んでこようと思っています。何より素晴らしいのが、学部生の間はカリキュラムの中で単位をもらいながら留学に行けるところですね(笑)。
医療データと現場をつなぐディレクターを目指す
 データサイエンティストは医療業界に特化した職業ではありません。ですから、データを扱うことや読むことは得意だけれど、そのデータが医療上どういう意味を持つかを理解していない人がほとんどです。だからこそ、現場の医者や疫学者、公衆衛生学者が介入して、どういうデータで分析するのが適切なのかを検討することが必要になります。健康状態というのは、フィジカルのファクターだけではなくて、収入や学歴、住んでいる場所など様々な要素から判断しないと正確な分析はできないからです。けれど現状は、それらの人々の間をとりもって、いろんな立場の人をうまくつないでくれるディレクターのような立場の人が日本にはまだいません。僕はその第一号になりたいと思っているんです。
 もちろん今でも、それぞれの立場の人が連携しようと努力しているのですが、あまりうまくいっていないように思います。大学病院ならいろいろな分野の教授がいらっしゃるので、連携だけならうまくいく場合もあるでしょう。でも、ひとつの病院だけの医療統計では汎用性がないので、もっと国や地域全体でのガイドがあればいいと思います。それを実現するためには、データサイエンスが活きるのではないかと思っています。
 医療データの専門家として現場に立つのか、臨床医として現場に立つのかはまだ決めていません。実際に人を診てみたら、すごく面白く感じるかもしれないですしね。ただ、どこにウエイトを置いて動くかはさておき、自分よりもデータをうまく扱える人がいるのは当たり前、自分より診療がうまい人がいるのも当たり前だと思っています。ですが、双方の意見を聞いて理解でき、双方が言っていることを組み合わせて、課題解決できる人に仕事を依頼するような立ち位置で仕事をしている人はまだ日本にいないと思うので、そこを模索していきたいと思っています。
募集枠はわずか1名。MITへの留学チャンス
 留学のチャンスを知ったのは2年生の時です。東京医科歯科大は留学にとても力を入れていて、秋頃に「今年はMITから枠がくるらしいよ」という話がまわってきたんです。その年は、ひとつ上の先輩が行かれて、今年は5月から10月までの6か月間、僕が行くことに決まりました。
 MITへの留学制度は、僕が1年生の時にネバダ大学から日本人の教授が赴任してきて、その先生が引っ張ってきたコネクションです。なので、本当にラッキーでした。東京医科歯科大はインペリアルカレッジロンドンをはじめとして海外の協定校の枠が多くあることは昔から有名でした。インペリアルは世界屈指の理工系大学で少し枠が大きいので、データサイエンスと結びつけることをやろうと思えばできるはずです。ただ、あまりポピュラーな分野ではないと思っていました。そのような時に、データサイエンスと臨床医学を結びつけようという取り組みをすでに行っているMITの研究室から1名だけ募集がかかったんです。
 留学にあたっては、まず書類審査をクリアすることが必要で、これまで東京医科歯科大でどういうアクティビティをしてきたかが問われました。そのほか、語学力ではTOEFL iBT®の点数が問われますし、志望動機やなぜMITじゃないといけないのか、さらには、この留学があなたの人生にどんな影響があるかといったエッセイをひたすら書いて、その後に面接がありました。
 準備はいろいろと大変でした。僕がこのプログラムの話を知ったのが2年生の秋でしたので、3年生の頭から医療統計情報を扱う研究室、簡単に言いますと公衆衛生ですが、そこの先生にアポをとって話を聴きに行き、自分も関わらせてもらいました。研究室で厚生労働省が公表している資料などを分析して取りまとめていく仕事を手伝わせてもらいながら、基礎的な知識を身につけていきました。それと、日本での医療データの扱われ方がどういうものかも勉強させてもらいました。MITに応募した中で、おそらく僕が一番動き出しが早かったと思いますし、やれることはすべてやったという手ごたえもありました。
勉強の進め方は“塾のカラー”が出る
 留学を志すには、当然ながら英語力が必須になるわけですが、グノで学んだ英語はその土台になりました。とりわけ、英語の勉強の仕方がちゃんと自分の中に定まっていたことが良かったと思っています。例えばTOEFL®の点を取るということで言うなら、試験の形式に沿って勉強していけばある程度の点数は取れるようになりました。ただ実際には、テストで点を取ることはあまり重要ではなく、肝心なのは英語を使えるようになること、言語力(言葉を使う力)を上げることだと思います。
 その点においても、グノの英語の授業でやった要約のトレーニングは役に立ちました。500字とか1,000字といった限られた文字数の中で自分が言いたいことをすべて詰め込み、理路整然とした文章を書くことは大学でもたびたび求められます。ところが多くの人は、そうした訓練を意外としてきていないため苦手です。グノでそういった訓練がしっかりできていたことは、今もとても役立っていますし、もちろんこれからの留学でも役立つはずです。
 医科歯科大は1年生からグローバルヘルスリーダーを育成するプログラムがありますが、そこでは英語での議論が授業にたくさん組み込まれています。その時に感じたことは、単に英語を話せる、聞ける人はたくさんいますが、英語で議論するためには文化への親和性が必要になってくるということです。というのも、外国の方と話していると日本人とは話の組み立て方が全く違うんです。同じ英語でも日本人が英語で話すのと、イギリス人とでは話の構築の仕方に差がありますし、アジア人同士でもまた違いがあります。そこが文化の違いであり、外国の方と英語で話す上ですごく難しい部分です。しかし、グノで様々な生きた英文に触れながら、論理構成をいつも意識する学習をしていたことで、他の人よりは困難なく適応できているのではないかと感じています。
 あと、大学に入って感じたことですが、勉強の進め方というのは“塾の色”が出ますね。それは当然のことで、みんな一度成功した勉強の仕方を大学に入ってからも続けているんです。その点、僕はグノで英語を受講していたことで、英語を学ぶというより“使える”状態にする、“身につけていく”ための流れがエッセンスとして組み込まれていると感じることがあります。これはとても有利なことだと思っています。
最先端のプロセスを日本に置き換える
 留学する目的は、将来的に“医療における新しい意思決定基準”を導入することです。そのためにも、医療をより良くするための一連のプロセスを学びたいと思っています。
 MITでは、病院で患者の検査データが取られ、データサイエンティストが分析をしたものに、医療者や統計学者などいろいろな人が意味づけ、問題提起をしていきます。そこから医療をより良くするための方法はもちろん、それを収益化する、または改善するための方法などを示していきます。その一連の流れを彼らがどのようなビジョンをもって進めているのか、しっかりと見てきたいと思います。
 ただし、そのプロセスをそのまま日本に持って帰ることは不可能だと思っています。日本で実践するにあたりどのようなバリアがあるのか、それをどうしたら突破できるのかという部分も含めて、リアルな現場を実際に見て、考えることが今回の留学における最重要課題だと捉えています。
 全部をひとりでできる人はいないと思います。臨床医としてバリバリのスーパードクターで、データを扱えて統計にもすごく詳しい“医学の神”のような人はいません。ですから僕は、問題解決に向けてどのようなプロセスで進め、そのためにはどのようなステークホルダーに関わってもらえば良いのかということを考えられるディレクターになりたいのです。僕はそれを“新しい時代のチーム医療”と呼んでいます。今でも“チーム医療”は注目されていますが、そこにエンジニアやデータサイエンティストなど、もっともっと様々な人を巻き込んでチームを組むのが未来の医療なのではないかと妄想しています。その妄想が実現可能なのかどうかをしっかり見てきて、このグノレットで、また報告をさせていただきたいと思います

 最後にちょっと、東京医科歯科大の宣伝をさせてください。
 僕は大学に入ってからずっと、後輩からアドバイスを求められるたびに、「医学部なんてどこに行っても同じだよ」と言っていました。どこの大学でも医者になるプロセスは大きく変わらないと思っていたからです。でも、この留学が決まって全然違うと思いました。何しろチャンスの幅が違う。東京医科歯科大にいたから今考えているようなテーマでも留学が実現したわけです。
 また環境も良かったと思います。「いろいろな人をつなげたい」と話しましたが、先輩や研究室にも同じようなことを考えている人たちがいて、相談できる先生もいました。そのように大学の中で同じ問題意識を持っている人たちと刺激し合えるというのは素晴らしい点でした。幸運をつかみやすい大学だと思います。

*2019年12月1日、留学から帰国した海老名さんにお会いしました。
 その模様は、こちら


ホーム > Gno-let > Gno-let24 > グノーブル 卒業生インタビュー Part4